DX(デジタルトランスフォーメーション)と言う前に、もっと楽しく受注プロセスを学んでほしい。こういう思いでこの記事を書きました。受注プロセスを楽しく学べるのが、シンデレラ物語です。いったい、どういうことか? まぁ読んでください。とにかく楽しいですから。
シンデレラ物語? 受注プロセス?
シンデレラ物語とは、あのシンデレラ物語のことです。継母に虐げられても舞踏会に行き、ガラスの靴が決め手となって、最後は王子様と結婚する。あのシンデレラ物語です。
物語はシンデレラと、王子様の結婚で終わります。両者が結ばれることがゴールです。ですのでシンデレラを「お客さん」、王子様を「商品」と置き換えてください。あなたがどのように振舞えば、「お客さん」と「商品」が結ばれるのか? シンデレラ物語は、多くの示唆を我々に与えてくれます。
始まりは「理想と現実のギャップ」
(シンデレラは誰もが羨む、理想的な家庭に暮らしていました。)
最初お客さんには、悩みも不満も何もありません。
(ところが、実母が亡くなり父親が再婚します。継母との共同生活が始まりますが、父親が死んでしまうと、シンデレラは召使い同然に、虐げられるようになります。)
何かの出来事で、お客さんの心に悩みや葛藤が生まれます。
(ただ、シンデレラは夢を持ち続けました。素敵な男性と恋をし、愛され、幸せな家庭を築くことを。)
幸せになりたいという思いが、つらい日々という現実に対して、ギャップを作ります。このギャップを解消することが、シンデレラの行動動機です。そのために「素敵な男性」が必要になります。
(あるとき、シンデレラは大きなミスをしてしまいます。作った食事のなかにネズミが紛れ込んでいるのを、気づかずに継母に出してしまうのです。怒った継母はじゅうたんの洗濯、窓拭き、草むしり、煙突そうじなど、ありとあらゆる無理難題を押し付けます。シンデレラは憤りますが、怒りのやり場はどこにもなく、夢と現実のギャップに打ちひしがれてしまいます。)
あるきっかけで、感情が限界に達します。理想と現実のギャップが最大になった時、シンデレラの行動が始まります。
転機となった、幸せの便り
(そんなとき舞踏会の招待状が届きます。差出人は国王で、結婚適齢期の女性は誰でも舞踏会に出席できると書かれています。シンデレラは期待に胸を膨らませます。舞踏会? 素敵な男性に会えるかもしれない!)
「舞踏会」はマーケティングでいう、オファーに相当します。「素敵な男性」が自分に相応しいかどうか、体験する場です。フィットネスクラブの無料体験や、化粧品のお試しセットのようなものですね。その招待状がシンデレラに届きました。
(シンデレラは目に浮かべます。薄汚れた服を脱ぎ捨て、美しいドレスを身にまとい、夢のように幸せな気分に浸っている自分の姿を。夢の中で恋焦がれる、素敵な男性と会えるかもしれない! 期待はどんどん膨らみます。)
シンデレラが目に浮かべたのは、自分が幸せになっている姿です。素敵な男性は情景の一部であり、王子様(商品)を直接求めていません。求めているのは自分の幸せであって、王子様ではないことを忘れないでください。
(ところが問題が発生します。舞踏会に出席するには、綺麗なドレスを着なければなりません。シンデレラの服は、ボロボロでした。シンデレラは寝る間を惜しんでドレスを作りますが、継母はあらゆる雑用を言いつけ、ドレスを作る時間を与えません。)
オファー「舞踏会」がどれほど魅力的でも、そこには必ず「障害」があることを教えています。
(昼間にドレスを作る時間はない。シンデレラは毎日徹夜してがんばります。ただ疲れは溜り、最後は眠り込んでしまいます。結局、ドレスは完成しませんでした。シンデレラは、その場に泣き崩れます。そこにねずみが登場します。シンデレラの眠り込んでいる間、ネズミたちは、一生懸命ドレスを作り続けます。翌朝、シンデレラはドレスが出来上がっていることに驚き、飛び上がって喜びます。)
(ところが継母は、ドレスを着ているシンデレラを見ると、言いがかりをつけてドレスをビリビリに破いてしまいます。「フンっ、これでもう、お前は舞踏会に行けないよ」平然と言い放ちます。シンデレラは呆然自失の状態です。希望も夢も二度と信じない。シンデレラは誓います。一生縁もないのに、夢を追い求めても、ますます惨めになるだけだ。どんなに努力しても、自分は幸せになれない運命なのだ。いっそ今の不幸な生活を続けて、流されて生きたほうが、ずっと楽な気がする。)
この時シンデレラは、絶望のどん底にいます。理想と現実のギャップが、最もかけ離れた状態です。このタイミングで、とても大事な役割を担う人が登場します。それが魔法使いです。
魔法使い、登場!
(黒いマントを羽織った老婦人が、どこからともなく現れた。シンデレラの目から溢れる涙をぬぐってあげると、優しく話しかけるのでした。)
この魔法使いは営業マンの役割を演じ、数多くの示唆に富んだ行動をします。まず最初に登場タイミングに着目してください。理想と現実のギャップが最大になった時、すなわちお客の悩みが最大の時に登場します。それはお客が誰かを、必要とする時だからです。
売手視点で言い換えれば、営業効率が最も高いタイミングと言えるでしょう。営業には無駄がつきものですが、このタイミングで登場すれば、無駄な訪問はなくなります。加えてこの営業マンは、相当なやり手です。魔法使いの言葉かけは極めて重要なので、注意して読み進めて下さい。
(心配しないで。あなたが夢と希望をなくしたら、私はここに来られなかったわ。だけど、こうして出会えたでしょ。あきらめるのは早すぎるわよ。さあ、立ち上がって舞踏会に行きましょう。)
この営業マンはお客さんの悩みを理解し、共感しています。営業マンにとって最も大切な行為です。脱線しますが、ほとんどの営業マンはここを間違えます。共感せずに、他のお客さんを引き合いに煽ってしまうのです。
- 他の女性もみんな舞踏会に行ってますよ。あなたも行かないと乗り遅れますよ!
お客さんは綺麗なドレスがなくて、行きたくても行けないのに、現実を無視してしまいます。ひどいケースでは、
- いま舞踏会に行けば、30%オフで王子さまに会えますよ! お得です!
- いま舞踏会に行けば、大きなお城がもれなくついてきますよ! お得です!
やってしまう。。。
お客さんはドレスがなくて、行けないのです。ドレスをどうにかしてほしいのに、王子様がお得ですとやってしまう。物語に戻りましょう。
(シンデレラが「あなたは誰?」と訊ねると、「あなたを苦境から救う魔法使いですよ。」と自己紹介します。)
営業マンは、お客さんを苦境から救う魔法使いでした。
(そして、呪文をとなえ、魔法の杖を振ると、かぼちゃはボンと飛び上がり、輝くばかりの白い馬車に変わります。ねずみは馬に変わります。犬は召使に変わります。シンデレラが着ていたボロボロのドレスも、月の光をうけてきらびやかに輝く純白のドレスに変わります。そして靴は透き通った、ガラスの靴になるのです。)
ここで魔法使いは、シンデレラが抱える悩みを一つ一つ、解決しています。魔法使いの行動は障害の除去であり、王子様の紹介は全くありません。
魔法使いが、本当にスゴイ理由
そして、この魔法使いが本当にすごいのは、次の言葉です。感謝するシンデレラに魔法使いは次のように告げます。
(でも覚えておいて。夢と同じで、魔法は永久に続かないの。あなたがこの姿でいられるのは今夜の12時までよ。だからそれまでに・・・。)
これは期限の設定に他なりません。素敵な男性のお試し期間は12時までと、期限を設けています。この営業マンは期限を設定して、お客さんをフリーにしないのです。
営業プロセスというのは、最初はお客さんへの共感で始まりますが、最後は期限を切って購入の決断を促すものです。お客さんへの優しさを勘違いする営業マンは、期限の設定を躊躇いますが、これをしないとお客さんは、ダンスを踊り続けることになります。それは本当の意味で、お客さんのためになりません。
舞踏会で踊るだけのお客さんは、まだ決断するタイミングにいないのです。ですからいったん区切りをつけ、タイミングを改めないといけません。このような意味で、この魔法使いは本当に良く営業を分かっています。そしてシンデレラは次のように応じます。
(真夜中の12時まで! そんなに長く! シンデレラは歓声をあげた。魔法が永久に続くなんて、むしろシンデレラも期待していなかった。今夜の舞踏会に行ければ、それで満足だった。)
営業が期限を設定し、お客さんはそれに納得しています。決して無理をしてないことに注意してください。
ここまでの魔法使いの行動を整理しましょう。
- お客さんが悩んでいるタイミングで登場する。
- 冒頭で顧客の悩みに共感する。
- 購入に向けた障害を取り除く。
- 誘導は一切しない。
- 顧客をフリーにせず、納得するかたちで期限を伝える。
いかがでしょうか?
受注プロセスで鍵になるのは、顧客の心にあるギャップです。それを使って顧客を動かすことができるかどうか、ここが最も重要になります。
ギャップを正しく指摘し、分かりやすい道を作れば、後は顧客の自由意思に任せるだけなのです。今多くの企業が受注プロセスのデジタル化(DX)を進めていますが、私から見ると顧客心理という根幹の理解が、不十分に思えます。事例等を通じた外形的な理解も必要ですが、一番大事なことは顧客心理を深く考えることではないでしょうか。