大企業、中小企業、ベンチャー企業と3つに分けて、オウンドメディアの事例を紹介します。オウンドメディアと一言で言っても、直面する課題は企業規模によって、大きく異なるものです。3つの異なる事例を見ることで、オウンドメディアに取組む価値と、乗り越えるべき課題を整理して下さい。
大企業、資生堂の場合。
まずは大企業の事例として、資生堂の場合をご紹介します。
オウンドメディアに取組む狙い。
資生堂やコカコーラに代表されるマーケティング企業の場合、ブランドマネージャーに権限を集約し、ブランド別にマーケティング展開するのが、これまでのやり方でした。
ところが、お客さんが利用するメディアは多種多様となり、行動パターンも変われば、求める情報の質も変化しています。その結果、従来のマーケティングシナリオに頼っては、ユーザーニーズに対応しきれない。これが問題の出発点にあります。
分かりやすくシンプルに言えば、よりお客さんの視点に立つには、どうすれば良いか? これがオウンドメディアに取組む狙いになります。
資生堂の戦略
資生堂がオウンドメディアで取り組んだのは、(1)3つのサイトに役割を分担させ、(2)アクセスポイントの多様化と、(3)ストレスのない動線を設計する、です。
1.コーポレートサイト
ここでは、グローバル企業として伝えるべき基本情報と、従来のブランド浸透を目的に情報を提供しています。マスメディアとの連携も視野に、イメージ訴求を使った構成です。
2.販売とマーケティングの「watashi+」
ここでは、顧客ニーズに合わせた接点作りを考えています。サンプルのプレゼントやビューティーコンサルタントのアドバイス等、役立つコンテンツを揃え、ネット通販と連動させることで、ストレスのない動線を意識していることが分かります。
3.異業種連動型の「Beauty&Co.」
ここでは、化粧品という切り口だけでなく、ファッションやダイエットといった異業種からの切り口も用意し、顧客接点の拡大を狙っています。自社の枠組みにとらわれず、顧客と接触する機会を増やす試みとして、とても意欲的な取り組みです。
オウンドメディアで、得られた効果。
これらの変更により資生堂の場合、サイト全体のトラフィックが1.7倍~2倍に拡大しています。資生堂クラスの企業で、トラフィックを70%以上アップさせたのだから、非常に高い成果と言えるでしょう。
また下図のように、直接アクセス、参照サイトのアクセス、自然検索のアクセスが、30%づつとバランスがとれており、知名度を生かした安定したまたアクセス構造になっていることが分かります。
さらにEC機能を付加したことで、注文までのトータルな流れができ、売り場とのコミュニケーションが活性化するという、組織的な変化も生まれています。
http://www.similarweb.com/website/shiseido.co.jp より。
構築時に直面した課題。
大企業の場合、広報、宣伝、販促等、社内関係者は多岐にわたります。またブランドやコンテンツ自体も多いですから、運営体制の集約も含め、関係者の意思統一が一番大変な作業です。
部門間の協力を得るには、何のために変更するのかという問題認識と、それに対する同意が不可欠です。そこで説得力をだすには、既存サイトの徹底した分析が何よりも重要になります。
資生堂の場合、
- アクセス解析でユーザーの行動導線、接触時間帯、サイト滞在時間等を、詳細に分析したこと。
- 定量・定性調査によるニーズ分析。
- さらにはトリプルメディアを踏まえた最適化。
このような形で、データの裏付けをシッカリとって推進したところに、成功のポイントがあります。
参考記事: 「お客様の行動導線に合わせてオウンドメディアを再定義」 資生堂のオウンドメディア戦略
中小企業、LIGの場合。
次に中小企業の事例として、LIGをご紹介しましょう。LIGは、社員60名のWeb制作会社であり、オウンドメディアの成功事例として有名ですが、私なりの視点で解説します。
オウンドメディアに取組む狙い。
Web制作業は、差別化の難しい業種です。差別化ポイントはもちろん多々ありますが、それを顧客に納得してもらうには、かなりの説明時間が必要になります。ネットであるにも関わらず、受注は営業マンの能力に、大きく依存せざるを得ない。これが現実です。
また予算を持つクライアントであれば、コンペを組むのが通常であり、営業マンには大きな心理的負担がかかります。
クライアントの要望に応えようとすれば、制作現場から「そんな予算で、そこまで対応できる時間はない!」と不満が生まれ、クライアントからは「予算は、これ以上ない」と釘をさされます。
このような状況を打開するのが、オウンドメディアの役割です。すなわち、オウンドメディアによって、ファンを増やし、競合優位を作る。これがオウンドメディアに取組む狙いとなります。
LIGの戦略。
LIGの戦略は、オウンドメディアを通じて、自社のことを知ってもらい、親近感を高めて、ファンを増やすことです。オウンドメディアの戦略としてはベーシックであり、全ての企業に共通する戦略といえるでしょう。
これを実現したポイントを整理すれば、次のようになります。
- 全体の2割程度の面白記事で、楽しい会社という印象を伝える。
- 社内の雰囲気や情報を「垂れ流す」事で、親近感を醸成する。
- ライターが顔を見せることで、個人対個人で関係を築く。
- 日常業務で得た知識や技術をアウトプットすることで、社員のスキルアップにつなげる。
これらを実現できているのは、この会社が「楽しい会社として、突き抜けてやろう!」という理念を持っているからです。
メディアとして機能させるためには、メディア全体から醸し出すトーンが重要になります。理念を踏まえたコンセンプトワークがあるからこそ、効果的に伝わるわけです。
整理して説明すれば、このような形になるのですが、現実のコンセンプトワークでは、最初から明確な形で進むのは稀なケースとみるべきです。
実際の作業時では、多くの記事を書く中から、突然変異のように突き抜けた記事が生まれ、それが方向性を決めて、全体を引っ張っていく。こういう手順をとる場合が殆どです。
この突然変異に相当するのが、この記事になります。
伝説のWebデザイナーを探して。
なぜこの記事は、アクセスを増やしたのか?
当初は月2万ページビュー程度だったアクセスを、この記事は90万PVに押し上げています。それはこの記事が、単なる社員募集の記事ではないからです。
「分かってくれ! 俺たちは、必死なんだ!!」
これが、この記事にはあります。少々下品な言い方かも知れませんが、やけくそ気味の開き直りが、読者の感情に訴えてくるのです。
もちろん演出もかかっています。ただ演出だけで、このような記事を作ることは絶対にできません。作り手に同じ心模様がない限り、ここまで突き抜けて伝えることは不可能です。
なぜなら伝えるとは、勇気を伴う行為だからです。伝える前には必ず戸惑いが生まれます。「ここまで伝えて良いだろうか?」「ここまで強く表現して良いだろうか?」 このような戸惑いを乗り越えて、言葉は文字に置き換わります。
強く伝えようとすれば、この戸惑いも同じように強くなります。それを乗り越えるには、「ええい! 本当のことなんだから、正直に伝えてしまえ!」 こういう開き直りがない限り、無理なのです。
LIGのケースから学んでほしいこと。
オウンドメディアの目的は、親近感の獲得です。それは単に多くの記事をアップすれば、済むわけではありません。単に社内情報を書けば済むわけでも、ありません。
次のように考えてもらうのが、正しいと思います。
数多くの記事を書けば、それぞれから結果が生まれます。8割くらいは鳴かず飛ばすの記事になるでしょう。そこから生まれるのは、焦燥感でしかありません。
ところが記事それぞれには、書き手の思いが詰まっています。真剣に書いた記事なら、小さな命が宿っているのです。
1つの記事で見れば、結果は出なくとも、その思いは集合体になって、あるタイミングで突然変異のような記事を生み出します。
それは記事全体のリーダーとなって、それまで積み上げた記事に、もう1度命を吹き込みます。
ここで初めて、オウンドメディアは記事全体として、本当に輝き始めます。そしてこのサイクルを繰り返すことで、オウンドメディアはどんどん自己成長するのです。
書くとは、自己成長です。それは自然の摂理にかなっていることを、忘れないで下さい。
参考記事: LIGのオウンドメディア運用の仕組みと今後の課題をまとめてみた。
ベンチャー企業の事例
3番目にご紹介するのは、ベンチャー企業の事例です。多分この事例が、一番皆さんの参考になると思います。なぜなら、これまでの2つは有名すぎるからです。
この事例では、皆さんが一番関心を持つ、アクセスアップと記事作成について解説しましょう。
婚活の「困った」を解決する、まりおねっと
事例の特徴。
- 立ち上げから6か月で、月間12万PVを達成しています。
- 記事の作成は、複数のライターさんに依頼しています。
- サイト全体の編集は1人で行っています。
- 記事数は約200強あります。
アクセスアップと記事作成について。
この事例が短期にアクセスを集めることができた理由には、数多くのポイントがありますが、特に強調したいのは次の3点です。
1.婚活というテーマ設定。
婚活というテーマに設定したのは、大きな成功要因だと思います。なぜなら、外部ライターが書きやすい内容だからです。結婚というのは誰もが経験する、人生の大イベントでしょう。身近なテーマになるから、ライターさんも書きやすいですね。そしてライターさんは女性が多いから、選択の幅も増えますし、記事作成にも意欲的に取り組んでもらえます。
2.検索ワードの分類・整理。
思いつきで記事を企画するのでなく、検索ワードを分類・整理し、入念に検討したうえで、記事作成に入っています。
- どのワードから取り組むか?
- どのようにタイトル設定するか?
- どのような記事構成にするか?
オウンドメディアでアクセス数を増やすには、ここをどれだけシッカリ企画するかが大事です。忘備録の形で記事数を増やした方は、検索ワードを考えて、記事タイトルを順次変更して下さい。
単に記事数を増やせば、アクセスが増える訳ではありません。検索ワードに引っかかるように、タイトルには最大の注意を払うべきです。
3.ライターさんを使いこなす編集スキル。
ライターさんに依頼すれば、簡単に記事が上がってくるかと言えば、決してそうではありません。文章というのは、書き手の心模様が反映されます。内容が同じでも文章全体から伝わるトーンは、異なるものです。
ですので丸投げしても、決してうまくいきません。各検索ワードから記事タイトルを考え、見出し構成くらいまで編集者が指示することが、必要になります。
この事例から学んでほしいこと。
LIGの事例では、記事には突き抜けたリーダーが必要なことを強調しましたが、これは第2ステップの話になることを、忘れないで下さい。
オウンドメディアの立ち上げ初期は、何よりも記事数を増やしアクセスを稼ぐことに尽きます。これが出来ないと、何も生まれませんし、モチベーションを維持することが難しくなります。当たり前の話かも知れませんが、やはりここが大事です。念のため・・・。
以上、オウンドメディアの事例を、企業規模別にご説明しました。
ご参考になれば何よりです。