日本の全てのサイトを見ているわけではありません。だから独断と偏見です。またSEOの視点はとっていません。あくまで顧客視点です。1人のコンサルタントの偏った視点かも知れませんが、それでもこのサイトから学ぶことは、数多いでしょう。あまり解説してもいけないので、3点だけに絞りました。これ位なら、許してもらえるのではないかな、と・・・。
なぜ、このWebサイトは凄いのか?
私が日本一完成度が高いと思うサイトは、キーエンスである。
東証一部上場、従業員数3000名。センサー関係を中心に、ファクトリー・オートメーション機器を製造販売している。自動車、半導体、電子・電気機器をはじめ、製造業のあらゆる分野で10万社以上の顧客を持つ大企業である。
今回、なぜこのサイトを取上げるかといえば、ここにはダイレクト・レスポンス・マーケティング(DRM)が、昇華されているからである。DRMは、人間の心理という曖昧な領域に焦点をあて、集客プロセスを組み立てる。
それは一般に知られている、理性中心のマーケティングとは趣が異なる。理性中心のマーケティングは「お客は一番優れている商品を買う」と考える。この考え方は、人が合理的な判断をするという前提にたっている。だから商品の差別化を重視するし、競合優位を見出そうとする。既存のWebサイトも、この考え方に支配されていると言って良いだろう。
一方のDRMは「人は必ずしも合理的な判断をしない。なぜなら理性より、感情で判断するからだ」と考える。このためDRMは人間の心理を徹底的に詰めていく。
理性より感情を相手にするので、言葉使いは馴れ馴れしくなることもあるし、意図的にビックリさせる手法も確かにある。これらの点を捉えて、眉毛をひそめる人もいるだろう。「DRMなんて、通販や中小企業が使うゲリラ手法だよ」と誤解している方も多い。
ところが、実際は違う。キーエンスは大企業だ。しかも生産財は理性にもとづいて購入されると、一般に信じられている。大企業で、しかも生産財。このような企業でもDRMは十分に活用できることを、この事例を通じて知ってほしい。
キーエンスは完全に、ダイレクト・レスポンス・マーケティングをサイトに昇華させている。それは消化を終えて、昇華のレベルだ。極めてレベルが高いので、漠然と見るだけでは、どこにポイントがあるか分からない。そこで今回、3点ほどご説明しよう。
トップページから分かる、このサイトの凄み
まずはトップページを見てください。
http://www.keyence.co.jp/
注目してほしい商品がフラッシュで切り替わり、画像アイコンとともに、分かりやすく商品が分類されている。扱っている商品点数が極めて多いから、トップページは商品をどのように分類するかが鍵になる。
画像アイコンを使って、分かりやすく表示させている点は優れているが、これだけ見れば、特に日本一というわけではない。では一体どこに、凄みがあるのだろうか?
それは、グローバルナビにある。
このサイトのグローバルナビは、5分類だ。5という数字の意味を、分かっているから5つにしている。
キーエンスが扱う商品は、品種がとても多い。加えて大企業だから、社会貢献とか、IR情報とか、グローバルナビに並べたい情報は、いくらでもある。ふつうの上場企業なら、ほとんどは7分類か6分類だろう。それをあえて、5分類にしているのはなぜか?
あなたが買い物を頼まれたとしよう。「牛肉と鮭と卵を買ってきて下さい」 こう言われれば、「分かりました、行ってきます」と言える。
「牛肉、鮭、卵、あと牛乳と納豆をお願い」 こう頼まれたらどうだろう? 慎重な人は、「ちょっとメモするよ」と言うかも知れないが、なんとか頭の中に放り込むことができる。
では、「牛肉、鮭、卵、それに牛乳、納豆、漬物、あと海苔もお願い」 こう言われたら、どうだろう? こうなると、殆んどの人は「ちょっとメモするよ」になるのが普通だ。
バラバラの情報が並んだ場合、人の脳は5つまでならギリギリで記憶できる。ところが7になると、これが出来なくなる。もちろん人によって個人差はあるだろうが、一般的に7は混乱が始まる数字だ。なぜなら人の脳は情報が7つ並んで示されると、数が多いと認識し始めるからである。
これだけ情報量の多いサイトなら、項目数を6個か7個にしたかっただろう。それをあえて5個に踏み留まっている。ここにサイト制作者の、力強い意思が垣間見えるのである。
なぜこれほどまで、技術資料にこだわるのか?
個々のページを見れば分かるとおり、このサイトは徹底的に技術資料にこだわっている。技術系の企業だから、技術資料なのだろうか。
そうでないことは、生産財に携わっている方なら、すぐに分かるだろう。キーエンスという会社は技術というよりマーケティングの会社だ。徹底したマーケティング企業であり、それは下手な消費財企業をはるかに上回っている。
そのマーケティング企業が、なぜここまで技術資料にこだわるかを、冷静に考えてほしい。その答えは一つしかない。コンバージョン率(請求率)が上向くからである。
人が行動しようとするとき、最初に来るのが情報探索だ。情報探索は欲求の一つに挙げられ、それは生後3ヶ月くらいから始まる。赤ちゃんが色々なものを触ったり、口に入れたりすることを考えれば、根源的な欲求であることは誰でも分かるだろう。
そして成長するに従い、探索欲求は安全基地がないと機能しなくなる。Webサイトからすぐに電話をかけにくいのは、そこに踏み込むと相手の営業活動に入って、後戻りできなくなると思うからだ。
最初は安全基地の中に身をおいて、情報を探したい。そして出来れば人の持っていない情報がほしい。だから技術情報、無料レポート、小冊子という情報系オファーは、購入を考え始めた初期の人を引上げるには、極めて優れたツールになる。
特に生産財企業は、絶対に無料レポートをつくるべきだ。商品単価が高く、数多くの検討項目が必要で、しかも相手は技術者だ。技術者は常に情報を求めている。極めて情報欲求が強いので、情報系オファーは効率的に機能する。
生産財企業で、情報オファーがあるとないでは、資料請求率に天地の開きが出ることを、ここで強調したい。
資料のネーミングの違い
少しマーケティングを勉強した方であれば、情報系オファーの重要性はわかっているだろう。事実、無料レポートや小冊子を掲げているサイトは少なくない。そしてせっかく無料レポートを作ったのに、請求率が芳しくないサイトも多い。
なぜ請求率が上向かないのだろうか?
その答えも、このサイトを見れば分かる。次の2つのページを見比べて、何が違うかを考えてほしい。
センサのページ
http://www.keyence.co.jp/appli/
レーザマーカー関連の無料レポート
http://www.marking.jp/download/index.html?motive=TOP
あまり技術面を忠実に説明すると、伝えたいことが伝わらないので、すごく大雑把に説明しよう。センサは、お客の生産ラインに組み込まれる部品である。だからお客さんは、どんなセンサが必要かをある程度分かっている。
これに対しレーザマーカーは、一つのユニットであり、センサほどお客の状況に左右されない。左右されないというと、自分でも語弊を感じるが、あくまでセンサと比較しての話である。
それぞれの商品で、どのような無料レポートを用意しているか、みてほしい。
センサの場合は、「改善のヒント集」「現場で差がつく測定原理」と、現場でどのように活用するかに主眼が置かれている。一貫してテーマは現場である。
これに対しレーザマーカーは、「マーキングガイドブック」「グリーンレーザの基礎知識」のように「お客さんの現場」でなく、「商品そのもの」を解説したレポートもラインアップされている。
なぜ違いが出るかと言えば、お客の関心が異なるからだ。センサの場合、お客さんは商品知識が豊富で、商品よりも現場をどのように改善するかに意識が向く。対するレーザマーカーは、レーザという不慣れな要素が絡むから、商品そのものへの不安も出てくる。
このようにお客の関心が変われば、レポートのテーマ設定も変わる。というか、変えなければお客さんは関心を示さない。無料レポートは、単にレポートがあれば良いわけではない。求められるのは、地に足ついた顧客理解であり、他サイトが使っているタイトルを真似しても、それは全く無意味なのである。
まとめ
最も本質的な部分を3つ取上げたが、このサイトはテクニカルな面で、随所に工夫が見られる。言葉の言い回し一つとっても、技術者向けの表現で統一しつつ、ここぞというページは、限界までフレンドリーに言葉の使いまわしを崩している。
また資料請求して、送られてくる資料を見れば、この企業の凄みがわかるだろう。どうすれば、資料があなたの机に放置されず、確実に封を切って、中身を読むようになるか。一挙手一投足に至るまで、綿密に計算されている。
ダイレクト・レスポンス・マーケティング(DRM)というと、怪しい情報商材で使われる長いページを思うかもしれないが、それはあまりに表層的な見方だ。
DRMの基本は人間心理にあり、そのエッセンスはどんな企業でも応用できる。このサイトはDRMを技術系企業という堅いサイトに昇華している点で、特筆すべきサイトといえるだろう。