どのように伝えれば、人は動くのか、行動心理から説明します。
- 営業マンなら、お客に商品を買ってもらわなければなりません。
- マーケティング担当なら、お客に興味をもってもらい、問合せを増やさなければなりません。
- 管理職なら部下に気持ちよく働いてもらわなければなりません。
相手が動いてくれてこそ、ビジネスの効率はアップします。人を動かす伝え方は、ビジネスの根幹に位置する、重要な話です。
日常のワンシーンから、考えてみる。
あなたがバス停でバスを待っているとしましょう。通勤の途中と思ってください。10人くらいが列をなしています。そこに一台のクルマが止まりました。なんだろうと思って見ていると、窓がスルスルと下がって助手席の人が声をかけてきました。
「よろしかったら、乗りませんか? 駅まで送りましょう。」
この状況であなたは、このクルマに乗るでしょうか?
乗りませんよね。ふつうならば。
それでは次の場合はどうでしょう。状況を変えます。雨が降っていると思ってください。
雨のためか、バスはなかなか来ません。「遅いなぁ。」あなたはちょっと、心配になりました。「きょうは朝一番で大事な来客がある。遅刻はまずいぞ。」少しイライラしてきましたが、それでもバスは来ません。
10分が過ぎました。タクシーが何台か過ぎましたが、全て満車です。どうしようかと思っていたその時、バスが来ました。
「良かった、これなら間に合う。」そう思ったのもつかの間、バスは止まらずに過ぎ去ってしまいました。満員で誰も乗せることが出来なかったのです。
「うそだろう! それはないよ。」こう心の中で叫んだとき、目の前に一台のクルマが止まりました。
「よろしかったら、乗りませんか? 駅まで送りましょう。」
こう声をかけられたら、どうでしょう。たとえ声をかけたのが、見ず知らずの人でも乗る人が出てくるはずです。
最初の場面設定では誰も乗り込みません。行動する確率はゼロです。後者の場合は乗り込む人が出てきます。いったい何処に違いがあるのでしょうか?
注意してほしいのは、両者とも同じ言葉を使っていることです。クルマの中から声をかける。「よろしかったら乗りませんか? 駅まで送りましょう。」これに違いはないわけです。
違いはどこにあるのか?
違いがどこにあるかといえば、あなたの心の状態です。バスが来なくて大事なお客を待たしてしまう。これがイライラを引き起こし、心の状態を不安定にしました。
このように人は心の状態が不安定になった時、行動を起こします。バランスが崩れた心の状態を、行動によって安定させようとします。これが行動の本質です。
ここではポイントを分かりやすくするために、「心の状態が不安定になる」と説明しました。これをマーケティングや営業プロセスで説明すると、「問題提起」という話になります。
すなわち、「こんなことにお困りではありませんか?」「こういった課題を抱えていませんか?」 こういう問い掛けです。
言葉であなたが問いかけ、お客が「そうそう、それです」と心の中で、同意(共感)するかどうか、ここが行動の起点になるわけです。
お客の関心を見抜き、それを言葉で問い掛けるかどうか?
これがない限り、お客は動き始めません。まずこの1点を押さえて下さい。
ためらいなく行動する、2つの条件とは?
話をさらに進めますね。先のバス停で、声をかけてきた人が、サングラスをかけた強面の人だったら、どうでしょう? 「大丈夫かな?」 こう不安に思うはずですよね。逆にご近所の顔見知りだったらどうでしょう。ほぼ100%の人が安心して、乗り込むはずです。
ここで次の条件、「間違いなく」が出てきます。
あなたの悩みは駅まで行くことです。ご近所の人であれば、「間違いなく」送ってくれるでしょう。強面のひとなら、「間違いなく」が揺らぎます。
行動に向けて動き始めたら、次に必要なのは、間違いなく問題が解決できるという証明です。サングラスの強面の人が声をかけても、間違いなく送ってくれるかどうか分からない。だから行動は、ストップしてしまいます。
分かりますか? こういうことです。
- 問題の発生: バスに乗らないと時間に遅れてしまう。
- 解決策の提示: クルマで駅まで送ってくれる。
- 間違いなく: 声をかけてくれたのは、ご近所さん。だから間違いない。
ここまで来れば、100%の人が乗り込むと思うかも知れませんが、最後にもう1つ壁があります。
もしあなたにあと10分、時間の余裕があったらどうでしょう。遅れそうでイライラしている。けどあと10分、時間に余裕がある。そうすると、こう思う人が出てきます。「まぁ、いいか。無理しなくても・・・」
これが行動の最後の壁、タイミングです。
行動とは、とても億劫で面倒くさいことなのです。だから今すぐ行動しないとマズイ、と思わない限り、何らかの理由を見つけて、行動を回避します。
「もう少し待てば、バスも来るだろう」「さすがに2回も素通りすることはないだろう」 こう考えて、「まぁ、いいか」と行動を回避するわけです。
整理しましょう!
ここまでの話を整理しましょう。
- バスが来なくて、イライラし始める。これが行動の起点。
- 「駅まで送りましょう」 これで問題が解決できると、解決策が提示。
- 声をかけたのは、ご近所さん。間違いなく駅まで送ってくれる。
- 「今、乗らないとマズイ!」 行動のタイミングが今しかない。
この4つが揃って初めて、人は行動します。
重要なのは、4つが同時に揃うということです。4つの情報は行動を促すための塊であって、バラバラに伝わっては、行動性が著しく下がります。
よろしいですか? ここは大事なポイントなので、注意してください。気持ちよく行動を促すには、メッセージの中に4つが同時に揃うことが重要です。これを絶対に忘れないで下さい。
この4つの要素を、私はPSET(ピーセット)と呼んでいます。
Problem: 問題認識。行動の起点です。今回はバスが来なくてイライラするでした。
Solution: 問題の解決策。今回は「駅まで送りましょう」でした。
Evidence: 間違いなくの証拠。今回は「ご近所さんだから間違いない」でした。
Timing: タイミング。今回は「今、乗らないとマズイ!」でした。
PSETは、P(問題)をSET(解決)する、という意味をこめています。
PSETは、どうビジネスに役立つのか?
それではこのPSETを使うと、伝え方はどのようになるのか、説明します。
マーケティング担当の場合。
あなたがマーケティング担当なら、お客が商品に興味をもって、問合せてくれるように仕向けなければなりません。販促ツールに書くメッセージは、PSETの4つの内容です。
- こんなことで、困っていませんか?(P 問題提起)
- お問合せいただければ、それは解決しますよ。(S 解決策)
- なぜなら、その道に詳しいプロが回答するからです。(E 間違いない)
- 今すぐ解決しないと、こんなことで困りませんか。(T タイミング)
この4つの内容が、販促ツールには書かれなければなりません。
どれか1つでも欠ければ、反応率は著しく下がります。
営業担当の場合。
営業担当なら、お客が商品を購入しなければなりません。お客から聞き出す内容は、PSETの4つの内容です。
- 今、どんな課題を抱えていますか?(P 問題提起)
- この商品なら解決できると思います。(S 解決策)
- 事実、これだけの企業で使われています。(E 間違いない)
- いつまでに、課題を解決する必要があるのですか。(T タイミング)
どれか1つでも聞き漏らせば、営業効率は下がります。
上司が部下に指示を出す場合。
部下に気持ちよく仕事をしてもらうには、PSETの4つの内容を伝えることで可能になります。
- 今の仕事には満足しているが、これからはこういうスキルが必要だよ。(P)
- この仕事をすることで、そのスキルが身につくんだよ。(S)
- 実は僕も若いときは、同じ経験をしているんだよ。(E)
- 若いうちに経験するのが、大事なんだ。(T)
どうでしょう? とってもシンプルで、簡単でしょう?
ビジネスのあらゆるシーンで、活用できます。
人を動かす伝え方、ぜひ使ってみてください。
その効果を実感できますから・・・。